2020年1月31日金曜日

2019年に観た映画 ☆ 極私的ベスト10


みなさま、お久しぶりです。矢車菊香です。
と申しましても「知らんけど~?」とおっしゃる方がほぼ100%ではないかと。
なにしろこのfemiPalニュースに拙文を載せていただいていたのは、もう78年も前のこと、長らくご無沙汰しておりました。あれからいろいろあったなぁ(遠い目)。

前置きはこれぐらいにして映画の話に参りましょう。以前は1作品ごとに割合長めの感想を書いていたのですが、今回は昨年私が観た映画の中から自分流にベストテンを選ぶという形にしました。
なお、映画館・劇場で観た作品が対象です。では、さっそく

    『マチルド、翼を広げ』 (フランス。監督=ノエミ・ルヴォウスキー)
    『幸福なラザロ』   (イタリア。監督=アリーチェ・ロルヴァケル)
    『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』(アメリカ。監督=フレデリック・            ワイズマン)
    『荒野にて』     (イギリス。監督=アンドリュー・ヘイ)
    『私のちいさなお葬式』 (ロシア。監督=ヴラジーミル・コット)
    『シシリアン・ゴースト・ストーリー』(イタリア/フランス/スイス。
      監督=ファビオ・グラッサドニア、アントニオ・ピアッツァ)  
    『希望の灯り』    (ドイツ。監督=トーマス・ステューバー)
    『家へ帰ろう』    (スペイン/アルゼンチン。監督=パブロ・ソラルス)
    『たちあがる女』   (アイスランド/フランス/ウクライナ。監督=ベネディクト・エルリングソン)
    『プールサイドマン』 (日本。監督=渡辺 紘文)

こうして見ると欧州映画が多めですね。

一昨年まではアジアや中東の映画が上位に入ることもありましたが、今回は『プールサイドマン』のみ。同じ日本の映画で『解放区』、日系アメリカ人監督による『主戦場』(製作国はアメリカ)等も興味深く観ましたが選外と相成りました。

 1位に輝いた『マチルド、翼を広げ』について。

監督のノエミ・ルヴォウスキーは俳優でもあり、彼女自身のこども時代がモチーフになっている本作では、マチルドの母親(つまり自身の母親)役を演じています。

主人公のマチルドは9歳。大好きなお母さんとパリで二人暮らしです。ところがお母さんは情緒不安定気味。決して暴力を振るったり暴言を吐いたりはしない優しい人ですが、風変わりで突拍子もない言動が多く、マチルドは振り回され何かにつけて支障が出ます。それでも懸命に母を支え、二人の暮らしを守ろうと孤軍奮闘して、いわゆるヤングケアラー状態に置かれている。
しかしそんな生活は長く続けられるものではなく、やがて別れの時が来てしまいます。その時、どれほどの測り知れない感情がマチルドの中で渦巻いたのでしょうか。
「機能不全家庭で育つこどもの話」を題材にした作品は多くありそうですが、その世界観は様々でしょう。ごりごりのシリアス、尤もらしいドキュメンタリー・タッチ、あるいは問題提起型の社会派ドラマ、はたまた難解な不条理劇?等々。

この映画は一見ポップでカラフルな装いに彩られ、半ばファンタジーのような形で差し出されます。こどもの視点により添っていると言えるかもしれません。それがマチルドの揺れ動く心象を鮮やかに映し出し、ともすれば沈鬱さに覆われかねない厳しい物語に躍動感と明るさや温もりを付与し、更に詩的な奥深さをもたらしている印象を受けます。

9歳という年齢はこどもには違いないけれ
ども、同時に徐々に大人への階段を上り始
めるそのとば口にさしかかった微妙に不安定な時期なのではと思えますが、主演のリュス・ドロリゲスがとにかく素晴らしい。この複雑で難しい役を演じるという以上に、”マチルドを生きている”とさえ感じさせます。

もうひとり(というか一羽)、忘れちゃならないのがあの小さなフクロウ。最初に登場する場面の驚き、可愛さ、楽しさは映画のハイライトではないかと密かに思っているのですが、可愛いだけじゃない特別な役割を担っています。孤独なマチルドの友となり、時にはさながら知恵を授ける賢者であり、彼女を助け導き共に行動する相棒です。それはまるでマチルドの内なる声を具現化した、彼女の分身のようです。フクロウを彼女にプレゼントしたのがお母さんというのもポイントですね。
この映画がルヴォウスキー監督の自伝的作品であることに意味深いものを感じます。
長い時を経てこども時代の体験を映画化することで、彼女は何かから解放されたのでしょうか。壊れもののようだった母との関係を嘆くのではなく、誰かを断罪するのでもない、紛れもない愛の物語として母へそしてこどもの頃の自分へ捧げたのでしょうか。
 
 10本全てに感想を入れると長すぎるのであとひとつ、5位の『私のちいさなお葬式』について少しだけ。原題はなんと『THAWED CARP(解凍された鯉)!です。
                      
かけ離れた邦題が付けられるのはよくあることですが、さすがに元のままでは使えないと配給会社の担当者は思ったのか? 笑。でも観た後では原題もおおいに納得できましたけどね。こちらはロシアの小さな村で一人つつましく暮らす、73歳のエレーナが主人公。シビアな現実を包み込むほろ苦いユーモアにたくさん笑わせてもらいました。また、身につまされるところの多い話でもありました。「この村にいるのは高齢者とアルコール依存者ばかり」。それはどうやらロシアに限ったことではなさそうです。
 
 みなさんはどんな映画がお気に入りですか? それでは、いつかまたお会いしましょう。    2020.1.20 矢車菊 香