2021年5月10日月曜日

2020年に見た映画10選 ⑥ 最終回

 

  娘は戦場で生まれた』   

    (イギリス/ シリア。

    監督:ワアド・アル=カティーブ、エドワード・ワッツ)


シリア内戦による死者数は、465000人に上るそうです(シリア人権監視団の推計)。




    最初は2011年のアラブの春を発端とする市民の抗議運動だったものが、アサド政権による弾圧と多くの国・多くの武装勢力の介入によって未曾有の戦争へと変貌。度重なる空爆と無差別攻撃で多数の民間人が犠牲になり、町は廃墟と化しながら未だ終りが見えない。映画はワアド・アル=カティーブが戦場に留まり、文字通り命懸けでカメラを回し続けた4年間の生々しい記録です。

彼女はこの間に出会った医師と結婚し娘が誕生しました。


自分と仲間を信じ、極限状態にあっても希望を捨てずに行動する強さ。その勇気に驚嘆します。奇跡的ドキュメンタリーです。

 

以上、途中お休みをしたために、長くなりましたが、順位を付けずに挙げました。いかがでしたでしょうか。今年も先行きは見えませんが、全人類を苦しめる感染症が治まって安心してどこへでも行ける、そんな日が早く来ますように。それまでどうか皆さんお元気で!   矢車菊 香 2021.1.28 


☆この映画選、届いたのは今年の1月28日でした。分けて掲載して、全て掲載できたのが、5月10日。長くかかりすぎました。最初の日付をそのままにしておきます。(PON子)            

2021年5月6日木曜日

2020年に観た映画から10選 ⑤

    お待たせしました。2020年に見た映画10選後半です。

ランブル 音楽界を揺るがしたインディアンたち』                          (カナダ。監督:キャサリン・ベインブリッジ)


アメリカ先住民の音楽がポピュラー音楽に多大な影響を与えたことを、このドキュメンタリーを観るまで正直なところ私は知りませんでした。アメリカ音楽のルーツはブルースやカントリーだと思っていた、その認識が覆されたのです。考えてみれば、元々アメリカの住人である彼らの文化に後から来た人々が影響を受けるのは当然と言えます。しかしそれは音楽史から抹殺されていた。先住民への長い弾圧の歴史があった。
 
映画に登場する多くの、誰もが知るスーパースターや凄腕ミュージシャンたちは先住民の血を引いています。
人種間の混血が進み複数のルーツを持つ人口が増えた今も、差別が無くなったわけではない。
‟アメリカ人“ とは誰なのでしょう。

 

なぜ君は総理大臣になれないのか』  (日本。監督:大島新)

 小川淳也衆議院議員を2003年から昨年まで17年に亘って追ったドキュメンタリー。‟地盤看板カバンなし“のため選挙区では強力な相手に勝てず比例で復活を繰り返しますが、選挙区当選でなければ党内の出世は見込めないといいます。総理大臣を目指すのであれば、政権交代以前にまず党のリーダーになる必要があり.…

なぜ君は総理大臣になれないのか」の答えがその辺りだとしたらなんとも辛い。志は高く真面目で正直で失敗や挫折をいくつも経ながら理想を追い続ける彼を、政治家に向いてない人だと周囲は言う。政治家が持つべき資質とは?政治家をバカにして笑っているうちは、この国は変わらない」この言葉に深くうなづきました。 (矢車菊 香)

2021年3月25日木曜日

堺市男女共同参画交流の広場相談室主催学習会「『お金』と『こころ』のコロナ対策」

 「2020年に見た映画10選」を後2回残したまま、ちょいと寄り道です。。

堺市北野田の堺市男女共同参画交流の広場でこの土曜日に行われる学習会のご案内です。以下は交流の広場のFBからの転載です。

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堺市男女共同参画交流の広場相談室主催の学習会です。テーマは「コロナ禍の生活」。タイトルは「『お金』と『こころ』のコロナ対策」です。
コロナ感染症蔓延に伴う時短、休業で、収入が減り、生活が厳しくなってきたという「大黒柱女性」、パートナーの収入が減りやりくりが苦しくなったという方、こうした事情で、子どもの進学に伴う出費に不安を抱えている方などのために、ファイナンシャルプランナーの植田香代子さんに生活を応援する助成金情報や負担の軽減法を教えてもらいます。
 「こころ」編では長引き、かつ終わりが見えないコロナ感染症に伴うメンタル不調を取り上げます。感染の不安や緊急事態発出に伴う外出控えだけでなく、テレワークや休業で家族の在宅時間が増えることもメンタルに大きな影響を与えます。家事の増大とそれに伴うストレスの増大等々・・・この頃何となく気分が晴れない、塞ぎがちでやる気が出ないという方のために、フェミニストカウンセラーの杉本志津佳さんと、おちこみがちなメンタルとの立て直し方を学びます。   (PON子)



2021年3月13日土曜日

2020年に観た映画から10選 ④

 その手に触れるまで 

  (ベルギー/フランス 監督:ジャン=ピエール&リュック・ダルデンヌ          


ベルギーに住む13歳の少年アメッド。ひと月前までゲーム三昧だった彼が急速にイスラム原理主義の過激思想に染まり、心酔する導師の言葉に沿って凶行に及びます。少年院に入り更生プログラムを受け、人々が手を差し伸べても洗脳は解けない。ブリュッセルにはイスラム教徒が人口の5割~8割を占める地域があり、その中に紛れ込む過激派によるテロが各地で発生しています。年端もいかない子どもがジハード戦士になってしまう危険が日常のすぐとなりにある。


過剰な演出はなく静かに淡々と進む映画ですが、
むしろそれが絵空事ではない恐怖を感じさせます。ラストシーンをどう捉えるか、アメッドは救われた? そうであってほしいと願わずにはいられません。

 ラストムービー  (アメリカ 監督:デニス・ホッパー)

 『イージー・ライダー』に続くデニス・ホッパーの2作目で、製作は1971年ですが公開後すぐお蔵入りになったのだとか。大ヒットした前作とは様相が違い、作者の狂熱的エネルギーを未整理のまま解き放ったような際立った異色作です。登場人物の振る舞いがほぼ例外なく常軌を逸していて、そのシュールさに笑えます。

なかでも、ハリウッドから来た撮影隊に感化され、張りぼてのカメラで‟本物の映画“を撮り始めるペルーの村びとたち。異文化への侵食と強烈なしっぺ返し。ハリウッド映画へのオマージュと皮肉が混在する入れ子構造のメタ映画? いろいろと解釈はできますが、それよりも先に半端ない熱量に圧倒され、鑑賞後に不思議と元気が出たのは確かです。  -続ー  矢車菊 香)

2021年3月11日木曜日

2020年に観た映画から10選 ③

 

  82年生まれ、キム・ジヨン  (韓国 監督:キム・ドヨン)

話題になった小説の映画化。私は小説を読んでいないため比較はできないのですが、「そうそう、そうだよね!」と思う場面が多々ありました。社会全体にあまねく空気のように浸透している性差別。韓国も日本も女性が置かれている状況は似ているのだなと。監督のキム・ドヨンは女性ですが韓国には他にも女性の映画監督が多くいて、その活躍が注目されています。

日本はどうでしょう。女性の監督はいるけれども多くはない。そしてこの映画のように、劇場公開された作品で身近にある性差別を正面から撮ったものは、私の知る限りですが見当たりません。なぜなのか、そのあたりも考えさせられます。

シカゴ7裁判』  (アメリカ 監督:アーロン・ソーキン)
            
これは史実を元にした映画です。1968年、ベトナム戦争が泥沼化する大統領選挙間近のアメリカ。シカゴで民主党全国大会が開かれるさなかに大規模な抗議・反戦デモが行われますが、市長の号令で警察や州兵が出動。多くの負傷者を出す事件へと発展します。

  このデモの首謀者とされ共謀罪で起訴された若者たちが、後にシカゴ7と呼ばれました。政治的意図によるこの裁判は後世に残るほどの酷い内容で、とりわけブラックパンサー党のボビー・シールに対する非人道的扱いに怒りが込み上げます。考え方も目標も異なりばらばらだった若者たちが敏腕弁護士の働きもあって次第に団結していく。その過程に目を見張り、最後は胸のすく思いがしました。  -続ー 矢車菊 香)                                      




2021年3月8日月曜日

2020年に観た映画から10選 ②

 

 レ・ミゼラブル』  (フランス。監督:ラジ・リ)

映画の舞台はパリ郊外のモンフェルメイユ。あのヴィクトル・ユゴーの「レ・ミゼラブル」の町です。
昨年「パリの恋人たち」(監督=ルイ・ガレル)という映画も観ましたが、いかにもおしゃれな、恋するパリそのものでした。
この映画が見せるのはフランスの別の側面です。移民と低所得者が多く住み、ギャングや怪しげな集団が幅を利かせる町で生き残るための争いが絶えず、警官は横暴。犯罪が多発し、町全体がフラストレーションに覆われ一触即発の状態にある。 
                         終盤、子どもたちが起こす反乱の衝撃。                    
この子たちの明日はどうなる?           モンフェルメイユで生まれ育ち今もそこに暮らすラジ・リ監督にとって、これがリアルなレ・ミゼラブルなのかもしれません。

 

テルアビブ・オン・ファイア』                      (ルクセンブルク/フランス/イスラエル/ベルギー。監督:サメフ・ゾアビ)

撮影所に通うため毎日イスラエル側の検問所を通らなければならないサラームは、パレスチナの人気テレビドラマ「テルアビブ・オン・ファイア」のスタッフ。
行きがかり上、検問所の司令官に自分は脚本家だと言ってしまう。
妻がこのドラマの大ファンである司令官は脚本に口を出し始め、次々と無理難題を吹っ掛けるようになり

この映画はコメディなので笑い所満載です。同時にサラームにはパレスチナ新世代の空虚感や諦念のようなものを感じました。

最後はこんなオチがあったかと呆然。
パレスチナ×イスラエル問題をこういうコメディに仕立てる離れわざに驚きますが、ゾアビ監督は願わくはかくあれかしと、笑いの中に希望を込めたのでしょうか。(矢車菊 香)

 

2021年3月6日土曜日

2020年に観た映画から10選 ①

新型コロナウィルスが世界を一変させた2020年が終わり、2021年がスタートしました。年を越しても収束せず感染は拡大し、再び緊急事態宣言が出されました。この感染症は数多の業界に打撃を与えていますが、芸術の各分野やエンタメ業界も例外ではないようです。残念ながら、これらは真っ先に‟不要不急のもの“ と見なされがちです。昨年は緊急事態宣言の期間中のみならず自宅に籠ることが多く、映画を観る機会は減りました。

少ない機会にも行くか止めるか逡巡しつつ、つてない緊張感を持って  映画館へ足を運びました。                                                                                    以下はそうして観た中から選んだ10作品です。

最初の作品は

 ルース・エドガー』  (アメリカ。監督:ジュリアス・オナー)

高校生のルースは非常に優秀で人望もある模範的な生徒。 ‟バラク・オバマの再来“などと言われて将来を嘱望され、その名のとおり光(ルース)の中を進む人生のように見えるが

BLM(ブラック・ライブズ・マター)は2020年のコロナ禍にあっても大きなうねりを起こしました。この映画はそうした潮流の背景にあるものをスリリングに炙り出します。人種間の問題だけでなく世代間の、大国と小国間の、思想間の、夫婦間の….多くの問題が複雑に絡むその狭間でもがく人たち。自分は何者か探し求めるルースの苦悩。 己の良識を疑わない人の内奥にも偏見や差別感情が潜んでいないか?                                   

これを観ているあなたは?と問われている気がします。ー続ー矢車菊 香)